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世界の歴史、文庫版

 有名人でもないので、普段は聞かれることはないが、学生や学内メディアなど身近な人たちから聞かれかねない質問で恐れているのは、「愛読書は何ですか?」という質問だ。
「学生に勧めたい本」なら挙げることはできる。「一度は読んでおくべき」という本でもいいからだ。ところが、生涯通じて何度でも読む「座右の書」や、「無人島に持って行きたい一冊」というのは、全然浮かばない。年に一回も開かない本を挙げたり、これ見よがしに凝った選択をするのも好きではない。おそらく「聖書」や「資本論」を挙げる人のように確固たる信念を持っていないからだろうが、自分の読書は底が浅いのだろうか。
 特に愛着は持っていないが、実際にしょっちょう開く本ならある。世界史や各国史の通史シリーズである。職業柄ということもあるし、細かい固有名詞や年号などは覚えていないこと、など幾らでも開く理由はある。特に文庫版の世界史の類は、何回開いたか知らない。何をする気にもなれない無気力なときですら、開くと安心して読み進められる。文庫版だと寝ながらでも読める。何遍読んでも飽きない。
 中学・高校のときから大学までずっとお世話になってきたのは、1970年代に中公文庫に入った全16巻の「世界の歴史」であった。われわれの世代の世界史教科書の執筆者であった村川堅太郎大先生(われわれの先生の先生の世代である)などが書かれていたわけだが、その後は山川の世界各国史(これは文庫本にはならない類)は買って読んでいたが、90年代の中公の新しい「世界の歴史」はハードカバーで出たときには買わなかった。大学院以降は自分の研究とこうした本は無関係だったこともある。
 今年、ようやくこの新しい「世界の歴史」が文庫として刊行が始まった。さすがに旧版は内容が古くなっていたし、大学で1年生の講義を担当すると、やはり高校世界史との連続を意識しないといけないため、専門外の時代・地域についても基本的な知識の確認が必要になる。現在では堅い専門書が売れないために、こういう概説書にかえって新しい解釈がさりげなく叙述されるケースもあり、その辺もチェックしておかないと、ひどく古い解釈で基本事項を語ってしまうかもしれない。
 学生にものの考え方を鍛える良書を勧めることも大事だが、基礎知識の宝庫として、こういう文庫版全集は学生も自室に置く基本レファレンスとして買っておくべきではないかなあ。言っても聞かないと思うけれども。

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