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やそだの授業(1):COP15の教室における再現

 女子大に着任して2年、授業もまさに試行錯誤の連続だった。担当科目は非常勤時代に教えた科目ばかりで、本当に信じられない偶然で枠にはぴったりはまったが、教え方は、法学や政治学の科目がたくさんある大学とは全然異なる環境なので、まったく異なるものを考えないといけない。
 国際交渉に関する説明なども、過程の説明やビデオ以外に何か工夫がないかと思ってきた。特に、COP15(国連気候変動枠組条約締約国会議)のように、最近行われたばかりで、総括したドキュメンタリーもまだないが、触れずにおけない交渉を、少しでもリアルに認識できるような方法がないかと考えた。
 もちろん、頭にあったのは、すでに幾つかの大学で擬似国際交渉体験に使われているシミュレーションである。つまり、学生に各国の外交官や政策決定者の役割を割り振り、各国のポジションや本省からの訓令を伝え、架空の事件(現実に起こっていることとは異なるが、類推は働く事例)を起こし、それに対する各国や国際機関の対応を各自が役割を果たす中でどのように展開していくかという実験授業である。
 ただし、これは事前の準備が相当必要で、各プレーヤーが国際法の基礎と、各国の基礎条件などを十分に把握したうえでないと、できない。法学部や政治経済学部のなかでもかなりレベルの高いところでないと難しい。以前勤めていた大阪大学でもこれを行っていたのは、大学院だった。
 こうしたことは無理でも、ただ教師が口頭で説明やビデオでは、学生には所詮、他人事になりがちである。また、私の担当科目では、これだけに特化するだけの時間的余裕がない。そこで、私が2週間の交渉で目立った発言などをもとに、テレビの再現ドラマのようにシナリオを書き、各学生に役割を与えて、演劇のように演じてもらうことにした。
 少しでも雰囲気を出すように、国際会議用の机上国旗を業者から自費で買った。ちょうど、東京製旗という会社が、机上国旗のバーゲン(ただし、在庫のある国のみ、期間限定)をしていて、1本千円で買えたのである。COP15の本会議場での発言やスピーチ、別会場での講演(ゴア氏やシュワルツェネガー知事)、場外でのグリーンピースの記者会見のまねごとをすることにした。
 参加者が23人という、ちょうどいい大きさの授業が一つあったので、下記の役割を学生に割り振る。デブア国連気候変動枠組条約事務局長、デンマークのラスムセン首相とヘデゴー気候変動相(各1名、議長が途中で交代したので)、アメリカはオバマ大統領とクリントン国務長官ほか(高級官僚など交渉者も演じる)、ほかは各国1人で首脳から外交官、交渉者まで演じる。国としては、イギリス、ドイツ、EU、スウェーデン(EU議長国=当時)、日本、オーストラリア、中国、インド、ブラジル、スーダン(G77途上国代表)、ツバル(島嶼国代表)、ベネズエラ(反米?途上国)。
 フランスが入っていないのは、サルコジの演説を授業時間までに私がうまくまとめられなかったためで、国旗も用意していて、本当は入れたかった。森林寄与分を強調するロシアのポジションも面白かったが、ロシア語が読めないので、やはり再現が十分にできず、間に合わなかった。モルディブの大統領も目立っていたが、ややスタンドプレー気味だったので、同じ島嶼国で交渉の現場でがんばっていたツバルの政府代表にした。他に、講演に来ていたVIPとしてゴア元米副大統領と、地方レベルで国際的な環境政策連合を作っているシュワルツェネガー・カリフォルニア州知事を入れた。あと、ソロスのような経済人も、間に合えば入れたかった。
 このほか、主催側のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のパチャウリ議長と、NGOとして人名を特定せずグリーンピースの代表(複数の発言を一人の人物に合成)と、これらのすべてにインタビューする記者(名前なし)も入れた。話が途切れないように、ドラマではナレーションに当たる部分を、私がTVニュースのアンカーマンとして、ニュースとして読むという体裁をとった。つまり、「交渉○日目の12月△日には、かくかくしかじかでした。」と言った後で、学生の再現ドラマが始まるという形で、2週間を大まかに流していく。
 教室を本会議場、ゴアとシュワ知事のときには講演会場に見立て、教壇を首脳などのスピーチ用の演壇とし、その横に長テーブルの議長席を起き、教室の端を場外に見立て、そこにグリーンピースと記者を置いた。会議の2週間が1コマの授業時間に収まるように、それぞれの発言は、主要部分を編集し、1分から2分くらいにしてある。
 結論や本筋を変えない程度のアドリブはあり、としたら、学生の側から、私がシナリオに書かなかった部分の発言も調べてきて付け加えた学生や、チャベス・ベネズエラ大統領のような悪キャラをそれらしく演じようとした学生もいて、結構見ていて面白かった。
 本格的なシミュレーションでないので、シナリオを書き、学生を駒に使った自己満足かもしれないが、ただ私が一方的に説明するよりは、交渉の複雑さは分かったのではないかと思う。難点も幾つか分かったので、新学期にもう一度、別のクラスでやってみて、よければ、シナリオや教室内の配置図をこのブログの親サイト「やそだ総研」で公開したい。ただ、当日撮った写真は、学生の顔がはっきり映っているものが多く、悪用防止や個人情報の観点から、ここではお見せできないのが残念である。
 
 

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