« マルコーニでなくポポフ? | トップページ | 「CBSドキュメント」も終了 »

オープンコースウェアの衝撃

 4月から京都大学がiPodやiPhoneで一部の授業を視聴できるようにするというニュースが最近、各メディアに流れた。すでに東大、京大、早稲田、慶應などがタッグを組んで、先行するアメリカのMITからも学びながら進めている計画で、当初は学内の学生向けに始めても、ゆくゆくは広く学外にも利用されるものになるようだ。そういえば、ネットではすでに慶應の授業の幾つかを見ることができた。
 こういうサービスは、授業料を払っている学生の利益を害しないかという恐れもあろうが、iPodやiPhoneに流れるのは、多くは基礎・教養的な講義科目であって、専門のゼミや実験はむしろ大画面のネットで中継でもしないと無理だし、それを狙ってはいないだろう。それだけに社会人向け講座などには、逆に適している。
 iPhoneやiPodにはすでにiTunes Uというサービスがあって、映像もあるが、音声だけのものなどは案外無料でダウンロードできるものもあったりする。こういうもので面白いのは、「哲学入門」「政治学入門」などの基礎教養科目であって、たとえば、そもそも「哲学」「政治」とは何か、と定義するのは案外難しく、名門大学の教師ならどうアプローチするか、聞いてみるのは、教師にも参考になる。
 試みに英米の名門大学の講義(やはり多くは教養・基礎科目のようだ)を幾つか聞いてみた。大学の教員として、とても参考になる。オックスフォード大学の「初心者のための哲学」を聞くと、入門といっても、先生がメリハリのある声で一節語るたびに学生から鋭い質問が入る。先生が語り終わらないうちから、学生が何か言い出す、あの海外の大学の独特の雰囲気が伝わってくる。いい質問も悪い質問もあるのだが、どれも自分の頭で考えているという感じがあって、予想不可能な質問を快刀乱麻を断つように裁いていくプロの先生の仕事だ。時間は日本と同じ90分だったが、時間の半分は学生の質問、さすがとしか言いようがない。これが教養科目なのだ。
 一方、日本でも上記のような名門大学以外でも、すでに授業内容をネットでは公開しているところがある。ある無名の大学(さすがに大学名は書けない)が公開していて、その内容を見てみたが、ただ録画したという感じで、精彩のない老教授が学生への配慮も映像化することへの配慮もなく、淡々と授業をしているのを見たことがあり、これは逆効果になると思った。つまり、このような公開によって、「こんな授業の大学には行きたくない」と思われる可能性もあるのである。相当の自信と準備がないとできないし、やってはいけない。
 しかし、教師たるもの、自分の勤め先でやれる環境になったら、自ら率先して手を挙げるべきだろう。それくらいの気持ちがなければ、こうした公開が進んだとき、学生は他大学の優れた授業を見て、自分の大学の先生にがっかりするかもしれない。しかし、その逆もあるかもしれないのである。名門大学のなかにも自分の研究ばかりで教育に不熱心な人もいる。選りすぐりの講義を並べて、こんなにいい講義をしていますよ、という打ち方もあるし、そうすれば実際に授業がよくなる。オープンなFDのようなものである。
 もし、保守的で怠惰な教員が、そういうものは、すごい装置がある理系大学しかできないと高をくくっていたら、全然分かっていない。iPodやiPhoneのアプリや対応するデータの送信は、中小でもやれる規模だ。それだけ、コンピュータや周辺技術が向上しているのである。うかうかしていたら、名門はおろか、下に見ていた大学にも先を越されるだろう。
 

|

« マルコーニでなくポポフ? | トップページ | 「CBSドキュメント」も終了 »