« 鳩山首相、講演でクーデンホーフ=カレルギに言及 | トップページ | 歴史教育を大胆に再編できないか »

アイドルの表紙で売る文庫

 書店で既刊の文庫を探しているうちに、これまで一冊も買ったことのない「ぶんか社文庫」(この文庫の存在に気づいたのも今回が初めてだ)で夏目漱石『坊っちゃん』などに、えらく可愛らしい少女たちが表紙モデルに起用されていることに気づいて、手に取った。表紙裏には、著者と並んで、この少女たちの紹介もあり、今メンバーの「総選挙」をしている話題のアイドルユニット、AKB48の面々と分かった。
 私にとってのアイドルは永遠に聖子ちゃんであるが、中原中也『汚れつちまつた悲しみに...』のモデル(篠田麻里子)はとてもきれいだったので、ジャケ買いしてしまった。本の中にも数ページ冒頭にグラビアがある。
 もちろん、中也の詩集は、すでに各社から出ていて、新潮、角川、岩波、集英社、講談社学術などの文庫に収められている。表紙解説によれば、中也が死んだのは1937年、とうに著作権は切れている。とすれば、他の文庫との差別化を図るのは理解できる。
 解説には、岩波など老舗が相当の人物を起用している。一時期は、各社が解説の著名人で文庫を売っていた。それでも本が売れない現状では、民主党内閣ではないが、表紙を変えるのも一つの手だ。上記のぶんか社文庫の中也は、幾つかの詩集から詩を選んだいわば選集だが、解説はついていない。読書というのは気まぐれで、逆に解説など欲しくない、本文だけほしいという気分のときもあるし、まったく意味のないものとは言えないだろう。
 映画化されるときに、その俳優たちを表紙にしたり、読書キャンペーンに人気モデルが使われたことはあるけれど、こういうことは珍しいのではないか、と思っていたら、そうでもなかった。今回、ぶんか社文庫の名作シリーズに入った作品を試みに検索にかけてみたら、SDP文庫というものが別にあり、これはスターダストプロモーションという芸能プロが所属タレントを表紙モデルに起用した文庫を出していた。これも著作権の心配のない名作ばかりで、伊藤左千夫『野菊の墓』(山口百恵や松田聖子などアイドル映画の定番だった)の表紙は本仮屋ユイカ、宮沢賢治『注文の多い料理店』は夏帆。
 著作権の切れたもので、かつ余り大部でなく重すぎない作品、そしてやや刹那系の作品ということは両方の文庫で共通だ。宮沢賢治、堀辰雄、太宰治、中原中也、夏目漱石はどちらにも入っているし、ほかに梶井基次郎、有島武郎、伊藤左千夫など、いかにもという作品が並んでいる。
 たぶん、これらが出たころに既に話題になっていて、今になって私が気づいただけなのだろう。これをどう考えたらいいかは分からない。別に、オタクに文学を読ませるいい機会だというつもりもない(オタクはむしろ知的である)し、文学の過度の商品化と憤るつもりもない。ただ、本文のエディションがちゃんとしてあるかどうかは気になる。それも必ずしも悪くなかった。むしろ、今の時代に合わせた配慮がしてある。私の買った上記の『汚れつちまつた悲しみに...』は、原著にあった読み仮名は歴史的仮名遣いのまま、他に文庫の編集者が振った読み仮名は括弧書きで現代の仮名遣いにしてある。
 これがまた、私には驚きだった。ほとんど辞書を使わなくていいようになっている。今の若い人が漢字の読みができていないのは、日々大学で教えていて痛感している。いや、われわれも読めない字はあったが、調べたのだ。その調べる労も省いている。歌にも出てきて読めそうな「彼方」「櫂」「顎」「炬燵」等にも振ってある。「火消壺」などは見たことがなくても、読めそうなものだが、振ってある。
 その意味で、ジャケ買いの言い訳ではないが、大人にもある意味、今の言葉をめぐる状況を考えさせてくれるものである。
 なお、ご関心の向きに、表紙のモデルを紹介しておくと、上記の中原中也のほかに、夏目漱石『坊っちゃん』(大島優子)、太宰治の4作品『斜陽』(板野友美)『ヴィヨンの妻』(河西智美)『人間失格』(前田敦子)『パンドラの匣』(宮崎美穂)、堀辰雄『風立ちぬ』(小野恵令奈)、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(北原里英)だそうです。神保町の交差点に写真集の大きな広告が出ている前田敦子以外は知らない。モデルについて詳しくは、ネット上に数多あるであろうAKB48情報をご覧あれ。
 
 

|

« 鳩山首相、講演でクーデンホーフ=カレルギに言及 | トップページ | 歴史教育を大胆に再編できないか »