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私が最も好きな画家デルボーとマグリット(陳腐な感想)

 私が好きな画家の一番(デルボー)と二番(マグリット)は、10代の頃からずっと、イタリア人でもフランス人でもない、ベルギー人のこの二人である。ベルギーが好きな日本人のかなりの部分はこの二人が好きなはずだが、イタリア好きやフランス好きは普通、それぞれの好みの国の画家を挙げるはずだ。
 ところが、私はおそらく国で言えばベルギー好きには入らず、イタリア好きであることは間違いないが、それを知っている人(たいていその人もイタリア好き)に「好きな画家は?」と聞かれると、いつも困る。イタリアについては、ルネサンス時代から現代まで色々な絵を見てきたが、本当に好きなのはキリコだけ、最近ファッツィーニの彫刻が好きになりつつあるが、これもまだまだ駆け出しだ。そのくせ、日本では有名でないガエターノ・プレヴィアーティという19世紀末から20世紀初頭に活躍した画家は好きで、画集も持っていたりする。しょせん美術はどれだけ好きでもアマチュアなので、世評に関係なく自分の好き嫌いを正直にしている。
 なぜ、デルボーが好きかというと、私がまだ10代で高校から大学に行くぐらいの頃、1983年だったか、東京、大阪のほか富山と姫路でデルボー展が行われ、私の郷里が国内4ヶ所の会場の一つになって、それまで知らなかったこの画家から強い衝撃を受けたからである。カタログは富山で編まれ、これは富山県立近代美術館が初期に手がけた、いい仕事だ。この美術館自身が1点「夜の汽車」という素晴らしいデルボー作品を所有している。
 デルボーの魅力は、古代の都市や現代の電車や不思議な人物などと一緒におかれた、体温が冷たい感じの上品な裸婦なのだけれど、それでいてどこか人間味のある表情が好きだ。北陸生まれの私には、北海に臨むオオステンデの冬の波が日本海のそれにダブったのかもしれない。
 やはり富山県立近代美術館に小さな作品がある(あったはずだが、ホームページのリストに見つからない)マグリットも好きで、今日はマグリットの家(正式名は、有名なマグリット美術館と区別するため、フルネームでルネ・マグリット博物館という)から見た。地下鉄でベルジカという駅から降りてさらに15分ほど歩く。目立たない通りに並ぶ他の家と同様の間口の狭い普通の家なのだが、ヨーロッパの都市中間層の住宅によくある長細い3階建てである。

Magritte1

 入館も民家のブザーを押して開けてもらう式で、係の人がざっと中の概略を説明してくれる。1階にはよく記録映画で見た台所とアトリエがつながった場所、寝室にはモンドリアンの影響を受けて彩色されたタンスなどがあり、2階から3階に彼の生涯を写真と幾つかの小品でたどることができる。
 特に今回面白かったのは、積極的でないにせよ、共産党などとかすかな接点があり、少しだけだが政治的なテーマの作品もあること、キリコやモンドリアンの影響などが分かったことだ。あの有名な鳥の形をした大空の絵は、サベナ航空の宣伝に使われたこともあったらしく、これだけの作家が国内にいたら、それは絶対そうするだろうなと納得した。彼が映画や写真など当時の新しいメディアが大好きだったことも、堅物でない感じがよく、好感が持てる。
 この近くを通るトラム94番に乗ると、街を北から南に下って繁華街のルイーズ通りに出る。この方向にデルボー展をやっている現代美術中心のイクセル美術館(「地球の歩き方」10〜11年版には出ていない)がある。雨が降ってきてルイーズ通りでイタリアンに入ると、これが正解で美味しい魚料理を食べて機嫌良く出たが、傘を置いてきたので歩くのがやがてしんどくなる。

Ixelles

 イクセル美術館は最寄りのバス停、トラム停留所のどれからも10分は歩かないといけない、これまた分かりにくいところにある。日本なら、こういう場合、最寄り駅に地図や案内板などあるはずだが、それもない。近くまで歩いたらようやく道中に案内板を幾つか見た。
 デルボーの作品で「夢」という、日本で言うと幽体離脱のような二人の裸婦(一人は宙に浮き、地上にいるほうは夢見て寝ている)を描いた暖かみのある絵は、1999年にフィレンツェで見たデルボー展の目玉で、カタログの表紙にもなったもので、ここで再会した。他にも、これまで思っていたデルボーのイメージと違う、初期の作品や荒々しい感じの作品もよかった。
 と、ここまで書いて、この日も完全に美術館めぐりになったことに気づく。どうも、今回、ベルギー行きを選んだ本当の理由はここにあるようだ。このために仕事に関係のあるような他の理由を付け足したに過ぎない。まあ、費用は私費だから、誰にも文句は言われまい。この文も陳腐だ。理屈抜きで好きなものについて書くときは読者は気にしていない。ただ、親戚宛に自分の遺言を残しておこう。私の棺桶にはデルボーとマグリットの画集を入れてほしい。

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